相続税・贈与税
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相続税は亡くなった人の財産(遺産)を相続したときにかかる税金です。しかし、遺産相続した人すべてに課税されるわけではありません。相続税には基礎控除があるため、その範囲内であれば課税されることはないのです。この記事では、相続税を払う必要があるのかどうかを知りたい人のために、基礎控除、法定相続人、相続税の計算方法について解説します。
目次
遺産総額がいくらまでなら相続税がかからないのでしょうか。結論から先にいうと、遺産総額が最低でも3600万円を超えなければ相続税はかかりません。相続税には基礎控除という少なくとも3600万円の非課税枠が設けられているからです。遺産総額とは現金や預貯金だけでなく、不動産や株式、自動車や絵画、貴重品、骨董品など財産価値があるものはすべて含まれます。これらの財産から、葬儀費用や借金などのマイナス費用を除いた後の財産を合計したものが遺産総額です。最低でも3600万円というのは、法定相続人の数によっては3600万円以上の遺産を相続しても、相続税がかからないケースがあるからです。これについては、次の段落で詳しく説明します。
相続税は相続する遺産の額が大きいほど税額も高くなってしまいます。しかし、基礎控除3600万円という大きな枠があるため、遺産相続した人の多くは相続税を支払う対象になっていません。実際に、国税庁の発表による平成30年分の相続税の申告実績では、被相続人(死亡者)のうち、課税対象になった被相続人の割合は、わずか8.5%となっています。これは、90%以上の相続が非課税だったことを示しています。
なお、相続税の支払いは自己申告です。税務署から支払通知がくるわけではありません。しかし、必要な相続税の申告を怠っていた場合(無申告)や、申告していても遺産総額が明らかに低い場合(過少申告)は、不足分の税金および追徴金が課せられる可能性があります。悪質な脱税行為と判断された場合は、逮捕される危険性もあるので注意してください。相続税の申告期限は、被相続人が死亡した日から10カ月以内です。
前述した通り、相続税には税金がかからない基礎控除という枠があります。ここでは、なぜ3600万円なのか、なぜ人によって相続税が無税になる範囲が違うのかを理解できるように「基礎控除」のしくみについて説明します。
相続税の基礎控除とは、遺産総額のうち相続税の対象とならない金額のことです。つまり、相続税がかかるのは、遺産総額から基礎控除額を引いた残りの分だけです。具体的には、相続税を計算する前に遺産総額から基礎控除の金額を差し引き、残った金額で相続税を計算します。この基礎控除の最低額が3600万円になっているのです。遺産総額が3600万円に満たなければ、残る金額がなくなるため、相続税を算出できません。したがって3600万円までは無税となるのです。
では、実際に基礎控除の計算方法を説明しましょう。基礎控除の計算式は「3000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除」です。法定相続人の詳しい説明については後述しますが、民法で定められた相続権を持つ人のことをさします。具体的には配偶者と親族(子供、両親、兄弟)などが該当します。法定相続人が1人しかいない場合の基礎控除は「3000万円+600万円×1人=3600万円」、法定相続人が2人の場合は「3000万円+600万円×2人=4200万円」です。
このように、法定相続人の数によって基礎控除が変わる=非課税になる範囲が変わります。通常は法定相続人が1人以上のケースがほとんどなので、最低でも3600万円は非課税になるのです。ただし、法定相続人がいないケースもありえます。たとえば、配偶者や親族が1人もいなくて、遺言で友人やお世話になった人に財産を渡す場合です。このケースでは相続ではなく遺贈になりますが、法定相続人が1人もいないので、基礎控除は「3000万円+600万円×0人=3000万円」になります。
遺産総額には現金のみならず不動産や株式など、故人が持っていた資産の全てが含まれます。現金や預貯金はそのままの金額を遺産として計算できますが、それ以外のものは、どのように計算すれば良いのでしょうか。ここでは、どのような資産をどう換算すれば良いのかを簡単に説明します。
土地や建物は相続財産の中でも大きな割合を占めています。現金や預貯金が少なくても不動産を相続すると、基礎控除を超えてしまい相続税がかかるケースも多くなってきます。それだけに、不動産の価格は慎重に評価しなければなりません。
土地の評価は路線価方式というもので評価するのが一般的ですが、路線価が定められていない地域では倍率方式を利用します。路線価方式とは、国税庁が定めた路線価(相続税評価額)に土地の面積と各種補正率とをかけて計算する方法です。ちなみに、路線価とは道路(路線)に面した土地の1平方メートルあたりの評価額をさしています。倍率方式は、市町村が定めた固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算する方法です。また、建物は固定資産税評価額で評価します。固定資産の所有者には、毎年固定資産税の納税通知書が送られてくるので、その通知書に記載されている固定資産税評価額が建物の価格になります。
ただし、建築中の建物には固定資産税評価額が付けられていません。その場合は、費用原価の70%が建物の評価額となります。費用現価とは、被相続者が亡くなった日までに支払った建築費用を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことです。一般的には建築費用の総額に工事の進捗率を掛けて計算します。たとえば、建築費用の総額が5000万円で、進捗率が50%の場合、建物の評価額は1750万円(5000万円×50%×70%)になります。
株式には上場株式と非上場株式の2種類があります。上場株式は証券取引所で取引されている株式のことです。証券取引所で価格が付けられるため、金額に換算するのは比較的簡単です。ただし、毎日のように価格が変動するので、どの時点の価格で評価すれば良いのかが問題になります。
上場株式の評価は、原則的には被相続者が「死亡した日の終値」「死亡した月の毎日の終値の平均」「死亡した月の前月の毎日の終値の平均」「死亡した月の前々月の毎日の終値の平均」のいずれかが採用されています。終値とは1日の最後に取引された株式の価格のことです。この4つの中から、株式の合計額が最も安いものを採用すれば良いでしょう。一方、非上場株式は証券取引所で取引されていない株式です。上場株式のように価格が付いているわけではありません。非上場株式の価格評価は複雑で難しいので、相続税に詳しい税理士に評価を依頼するのが一般的です。
車やバイク、貴金属、絵画、骨董品などの現物はどのように考えれば良いのでしょうか。これらの動産は「実際に売ればいくらの値がつくか」を調べて、それを評価額とするのが原則です。車やバイクであれば中古車の買取価格を調べれば良いでしょう。インターネットの中古車買取サイトで確認することも可能です。その他、貴金属は専門の取引業者、絵画は美術商、骨董品は古物商などで鑑定評価してもらいましょう。実売価格がわからない場合は、新品の小売価格から経過年数分の償却費を引いた金額を評価額とします。
相続税の基礎控除の額を知るには、法定相続人の数を把握しておく必要があります。ここでは、法定相続人の意味と優先順位、法定相続人の数え方で迷いやすいケースについて説明します。
法定相続人とは、民法で定められた相続する権利のある人のことです。被相続人(死亡した人)の配偶者と直系親族、兄弟姉妹がその権利を有しています。配偶者は必ず法定相続人になれますが、配偶者以外は以下のように順位が決められています。
第1順位は「被相続人の子供」です。子供が全員死亡している場合はその直系卑属(孫など)が代襲します。第2順位は「被相続人の両親」です。両親が2人とも死亡している場合はその直系尊属(祖父母など)が法定相続人となります。第3順位は「被相続人の兄弟姉妹」です。兄弟姉妹が死亡している場合はその代襲者が法定相続人になります。優先順位が高い人がいる場合、それより優先順位が低い人は法定相続人になれません。また、同じ順位の人が複数人いる場合、全員が法定相続人になる権利を有します。
たとえば、被相続人に配偶者と子供が2人、孫が3人、母親が1人、兄弟が1人いる場合を考えてみましょう。この場合、法定相続人になれるのは、配偶者と第1順位の子供2人だけ(合計3人)です。子供が2人とも死亡している場合は、配偶者と第1順位を代襲する孫3人(合計4人)になります。子供も孫も全員死亡している場合は、配偶者と第2順位の母親(合計2人)です。第3順位の兄弟が法定相続人になれるのは、子供、孫、母親と祖父母が全て死亡している場合だけです。なお、この法定相続人が「実際に相続する人」とは限りません。遺言などによって法定相続人以外の人が相続することもありますし、法定相続人が相続を放棄することもあります。
法定相続人を正確に数えられなければ、基礎控除を正しく算出できません。しかし、法定相続人の数え方で迷いやすい以下のようなケースがあります。1つ目は「被相続人の子供に養子がいる場合」です。養子であっても法定相続人になれますが、人数制限があるのです。実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までしか法定相続人になれません。これは、すべての養子に法定相続人の権利を与えてしまうと、養子を増やすことで基礎控除の額を大きくできてしまうからです。養子が法定相続人になれる人数を制限することで、税金逃れに利用されるケースを防いでいます。
2つ目は「代襲相続が起こる場合」です。代襲相続とは法定相続人が死亡している場合に、その子供が遺産を相続することをいいます。たとえば、被相続人の子供が既に死亡している場合、その子供(被相続人の孫)が存命であれば、孫が子どもに代わって法定相続人になります。なお、法定相続人から相続を放棄する人が出ても、基礎控除の計算にはその人の数も入れて算出します。基礎控除の計算で使用する法定相続人の数は、実際に遺産を相続する人と一致していなくても良いのです。
もしも、遺産総額が基礎控除を超えてしまい、相続税が発生することになったら、どのように税額を計算すれば良いのでしょうか。ここでは、基礎控除を超えた分の相続税の計算方法を簡単に説明します。
まず、遺産課税総額(遺産総額から基礎控除を差し引いた残りの額)を算出します。それを法定相続人が法定相続分の割合通りに分割取得したと仮定して、一人一人の仮の相続額を求めます。法定相続分とは、法定相続人それぞれが遺産を分割取得できる割合です。ただし、実際の遺産分割額は遺言や遺産分割協議で決められるため、法定相続分の通りに分割されるとは限りません。
たとえば、法定相続人が「配偶者・長男・長女」3人の場合、「配偶者2分の1、子供2分の1」が法定相続分になります。子供に割り振られた分はさらに人数分で割るため、この場合の相続額は「配偶者2分の1、長男4分の1(2分の1×2分の1)、長女4分の1(2分の1×2分の1)」です。遺産課税総額が1億6000万円の場合、法定相続人ごとの仮の相続額は、配偶者は8000万円(1億6000万円の2分の1)、長男・長女はそれぞれ4000万円(1億6000万円の4分の1)になります。
次に、法定相続人ごとに仮の相続税を算出し、それを合計して相続税の総額を求めます。仮の相続税の算出方法は、国税庁が公開している「相続税の速算表」の税率と控除額を使用して計算します。上述の例で法定相続人が「配偶者・長男・長女」の3人、遺産課税総額が1億6000万円とした場合、それぞれの仮の相続税は下記のように計算します。
配偶者は仮の相続額が8000万円なので、相続税の速算表より税率は30%、控除額は700万円です。これを計算すると、仮の相続税は1700万円(8000万円×30%-700万円)になります。長男・長女の仮の相続額は4000万円なので、相続税の速算表より税率は20%、控除額は200万円です。これを計算すると、仮の相続税は600万円(4000万円×20%-200万円)になります。法定相続人のそれぞれの仮の相続税額が計算できたら、その税額を合計して法定相続人全員の合計税額を算出します。上記の例では、相続税の総額は2900万円(配偶者1700万円+長男600万円+長女600万円)になります。
最後に、相続税の総額を実際に相続した額の割合で按分します。実際に相続した人が、受け取った額に応じて相続税を支払うためです。たとえば、上述の例で長女が相続を放棄して、長男が法定相続分の4分の1ではなく、2分の1を相続することに決まったとしましょう。法定相続人の数が減っても、基本控除、遺産課税総額、相続税の総額は変わりません。したがって、相続税の総額2900万円を配偶者と長男の2人で受け取った額に応じて按分することになります。配偶者と長男はそれぞれ遺産総額の2分の1を相続するので、1450万円(2900万円の2分の1)がそれぞれ相続税です。ただし、配偶者は後述する配偶者控除により相続税が控除されます。
相続税の納税方法は、相続人それぞれが申告書を作成して税務署に提出後、自分で納付を行わなければなりません。なお、相続税の納付期限は申告期限と同じく、被相続人が死亡した日から10カ月以内です。
相続税には人によって受けられる特例の控除があります。たとえば「配偶者控除」です。配偶者は法定相続分または1億6000万円までの相続なら相続税はかかりません。したがって、配偶者は相続税を払わなくて済むケースがほとんどです。他にも「未成年者控除」「暦年課税に係る贈与税額控除」など、相続税を軽くする控除があるので、使えるものがないかよく確認してみましょう。ただし、「控除を勘案すると無税になるので申告しない」ということはできません。特例の適用対象かどうかは税務署が最終的に判断するため、相続税の申告は必要です。
相続税は基礎控除により、最低でも3600万円を超えなければ無税になります。しかし、状況によっては遺産総額や基礎控除の計算が難しいケースもありえます。「これも資産なのか、遺産総額に算入しなければならないのか」という疑問や、計算方法が複雑で正確なのかどうか不安ということもあるでしょう。もし疑問や不安があれば、相続関係を専門とする税理士に相談してみることをおすすめします。
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