相続税・贈与税
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相続税・贈与税
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生前贈与を行える範囲はとても広く、現金や価値のある品物を渡すこともできますが、不動産も生前贈与が可能です。しかし、生前贈与すべきなのかどうかを悩んでいる人もいるでしょう。この記事では不動産の生前贈与について全般的な情報を紹介します。メリットやデメリットについても詳しく解説するので参考にして検討してみて下さい。
まずは生前贈与とは何かを正しく理解しておきましょう。生前贈与とは被相続人になる人が存命中に相続人になる人たちに対して財産を予め無償で渡すことを指します。相続税の課税対象となる財産がたくさんあるときに、相続税の金額を減らすための節税対策として生前贈与がよく行われています。遺産相続のときには相続財産全体に対し累進税率に基づいて相続税が課されることから、課税対象の財産の評価額が高いと莫大な相続税を納めなければなりません。しかし、生前贈与をすれば相続の時点では財産が少なくなっているので税額が軽減されます。
ただし、生前贈与をした場合には贈与税を負担しなければなりません。相続税にも生前贈与にも控除があることや税率が異なっていることを考慮し、どちらの方法が納める税額が少なくて済むのかを計算した上で生前贈与をするかどうかを判断するのが大切です。また、税金を納めなければならないタイミングを変えられるので、そのメリットも生かせるかを考慮して決めるのが合理的でしょう。
不動産を生前贈与するときにはどのような流れで手続きを進めたら良いのでしょうか。大まかには二つのステップで生前贈与を済ませることができるので、それぞれの段階について詳細を確認しておきましょう。
生前贈与をするときには不動産贈与契約書を作成するのが基本です。実際には生前贈与自体は口約束だけでも成立してしまうものなので、契約書をわざわざ作成する必要はありません。しかし、契約書を作成することによって生前贈与をした事実を明らかにでき、それに伴って必要になる費用を誰がどれだけ負担するのかも明確な形で合意できます。協議をして決めた内容を書面に残しておけば、後になってトラブルが発生するリスクは低くなります。口約束だけでは証拠が残らず、トラブルが起こる可能性が高いので不動産贈与契約書を作成しておきましょう。
不動産贈与契約書に記載すべき内容として、まず 「誰が誰に」「いつ」「どの不動産を」贈与するか、という情報が最低限必要となります。これに加えて、協議の際に合意を得た事項を列挙しておくと良いでしょう。特に不動産の生前贈与では次のステップの名義変更手続きや、贈与税の納付の際に、誰が支払いを負担するかが問題になりがちです。お金のトラブルは最も拗れやすい問題の一つなので、契約書作成時に決定事項として記載しておくのが安全です。契約書には関連する人が署名捺印をして大切に保管しておきましょう。
生前贈与のための不動産贈与契約書を作成したら、名義変更の手続きをするのが次の段階です。不動産の名義人が変更されることでその不動産の所有者として権利を主張できるようになります。そのため、ただ口頭で贈与したと言ったり、不動産贈与契約書を作成したりしただけでは十分ではありません。管轄の法務局で、正式には「所有権移転登記」と呼ばれる名義変更のための登記申請をしましょう。名義変更の申請をするときには協議して作成した不動産贈与契約書が必要になります。必要書類の一つとして登記原因証明情報が含まれているからです。不動産贈与契約書を提出すれば名義変更の理由が贈与であることを証明できます。
他に登記に必要な書類は登記申請書に加えて、不動産の関連書類として所有しているはずの登記識別情報又は登記済証と固定資産評価証明書、役所で取得できる贈与者の印鑑証明書と受贈者の住民票などの住所証明情報です。また、名義変更登記を司法書士に委任する場合には司法書士への委任状を用意する必要があります。
不動産を生前贈与するのには数々のメリットがあるので、代表的なポイントを理解しておきましょう。冒頭で紹介したように生前贈与をするメリットは相続税を減らすことという場合がほとんどです。相続財産が減るので確実に相続税対策になります。
相続時の遺産分割協議でトラブルが起こりにくくなるのもメリットです。被相続人になる現所有者も在席する中で誰が不動産を引き継ぐかを明確にできるので、親族の誰もが納得する形で話がまとまりやすいでしょう。生前に確実に一通りの財産を引き継ぐことができるので本人にも納得感や安心感があります。どの財産を誰に引き継がせるかを自分で決められる点も魅力です。
収益性のある不動産物件を所有している方もいらっしゃるでしょう。不動産投資をしていて安定した賃貸経営ができている物件を持っている場合には、生前贈与によりその物件を譲り受けた人が相続を待たずに収入を得られるようになります。賃貸経営を安定して行っていけるようにするためのノウハウも生前に伝授できるので、引き継いだ人も安心して収入源としていくことができるでしょう。住人の立場からみても、自分の住む物件のオーナーが代わったときに前のオーナーが管理をサポートしていると聞けば安心できるのではないでしょうか。
不動産の生前贈与にはメリットばかりではなくデメリットもあります。手続きを終えてしまってから後悔しないようにデメリットになり得ることは網羅的に確認しておきましょう。最大のデメリットは贈与税などの税金の負担が発生することです。相続税の軽減につながるのは確かですが、代わりに贈与税などの税金がかかってしまいます。節税を目的として少しでも多くの財産を残せるようにしたいと考えているなら、どの財産を生前贈与し、どの財産は相続にすべきなのかを取捨選択して決めるのが肝心です。実際に計算してみないとどのように贈与と相続を分けたらベストなのかがわからないので、節税を追求しようとするとかなりの負担がかかるのはデメリットでしょう。
生前贈与をした事実が税務署に認められず相続時に困ることもあるため注意が必要です。贈与の事実が税務署に否認されると、実際には既に受贈者に渡った財産が相続税計算上の相続財産として残ってしまい、相続税の課税対象になります。一回一回の贈与の証拠を確実に残しておき、非課税枠を超える贈与に対しては適正な贈与税を納めなければならないことを念頭に置いておきましょう。また、不動産贈与の場合には問題になることはありませんが、現金の贈与のときには毎年同じ金額を渡していて定期贈与と見なされてしまうと後から贈与税を課される可能性があるので気を付けなければなりません。
もう一つデメリットとして押さえておく必要があるのが、早めに生前贈与をしないと意味がないことです。被相続人の死亡から遡って3年以内の贈与については、「生前贈与加算」として相続税の課税対象金額に加えられ再計算されるため、生前贈与による節税効果は消滅してしまいます。節税効果を狙うのであれば、できるだけ早い段階から生前贈与を始めておくことが大切です。
生前贈与をすると税金が発生することは既に説明しましたが、どのような税金が発生するのかが気になる人も多いでしょう。不動産取得税、贈与税、登録免許税が不動産の生前贈与によって納めなければならない税金です。それぞれの税金の意味や一般的な金額を以下では詳しく解説します。
不動産取得税は不動産を売買、贈与あるいは交換、建築などによって手に入れたときに納めなければならない税金です。不動産取得税は不動産の固定資産税評価額に基づいて計算されます。固定資産税評価額に対して税率4%で計算するのが原則ですが、2021年3月末までは軽減措置が取られている影響で住宅・土地は税率が3%となっています。さらに軽減措置によって、土地は評価額の1/2が課税標準額となり、住宅については固定資産税評価額から1,200万円の控除があるため、これらを適用した評価額に税率3%を乗じた金額が不動産取得税となります。また、不動産取得税は課税額を計算したときに基準よりも低くなった場合には課税されない仕組みになっています。土地の場合には10万円未満、建物を贈与されたときには12万円未満が課税されない基準です。なお、贈与の場合には該当していませんが、建物を建築した場合には23万円未満であれば不動産取得税を納める必要はありません。
仮に評価額5000万円の土地を相続したとすると、その1/2に3%を乗じた金額は75万円となり、不動産取得税を納めなければなりません。しかし、300万円の土地なら4.5万円と計算されるため、不動産取得税は課税されません。なお、相続で不動産を手に入れた場合には不動産取得税がかからないので、生前贈与の場合にだけかかる負担として覚えておく必要があります。
贈与税は1月1日から12月31日までの間に受けた贈与に対して課税される税金です。不動産の生前贈与をしたときには相続ではないので相続税はかかりませんが、代わりに同年中に受けた他の贈与分も合わせて贈与税を納めなければなりません。贈与税には基礎控除として110万円が定められているため、もし贈与を受けた不動産の評価額が110万円に満たない場合には贈与税を納めずに済みます。ただし、他にも贈与を受けている場合には合算しなければならないので注意が必要です。贈与税は超過累進課税になっていて、金額に応じた10%~55%の税率と控除額によって算出されます。
例えば、5000万円の不動産を贈与された場合には税率が20%、控除が200万円です。5000万円から基礎控除の110万円を引いた4890万円に20%の税率をかけると978万円になります。この978万円から控除の200万円を減算した778万円が贈与税の金額です。贈与税が発生する場合には贈与のあった翌年の2月1日から3月15日の間に申告をする必要があります。そして、3月15日までに贈与税を納めなければなりません。
登録免許税は不動産の名義変更をするときに納めなければならない税金です。所有権移転登記にかかる費用は、取得した不動産の固定資産税評価額の2%になっています。不動産取得税と違って軽減税率がないのでこのまま本則の税率で課税されます。相続の場合には所有権移転登記にかかる登録免許税の税率は0.4%なので、生前贈与の方が1.6%も多く支払わなければなりません。5000万円の土地を贈与したときと相続したときの登録免許税を比較すると、贈与では100万円かかるのに対し、相続のときには20万円で済むので、その差は80万円にもなります。登録免許税の差は意外と大きいことを念頭に置いておくと良いでしょう。
不動産の生前贈与をして成功している事例もありますが、やり方を誤って後悔するケースも決して少なくはありません。手続きを進める際に何に注意しておけばうまく生前贈与を行えるのかを知っておく必要があります。まず、生前贈与をするときには不動産であるかどうかにかかわらず生前贈与契約書を作成しておくのがベターです。被相続人になる人や親族との間でいつ、どんなトラブルが起きるかわかりません。お互いが納得できる形できちんと契約を交わしておくことで、無用な争いを避けることができます。
また、先にも説明したように、生前贈与をしたときには3月15日の申告期限に注意しましょう。遅れてしまうと加算税や延滞税を課されることがあり、節税対策として行おうとしたのにかえって多額の税金を納める羽目になりかねません。なお、相続税についても申告と納税について、相続があったことを知った翌日から10か月以内という期限があるので注意が必要です。
生前贈与では相続時精算課税を利用することもできます。これは贈与時に贈与税を納めない代わりに相続発生時に相続財産と合算して相続税として納める税金の先送り制度であり、節税効果はありません。生前に誰にどの財産を引き継がせるのかを決めたいときや、遺産相続協議の負担を軽減したいときには有効です。
もう一つ注意点として押さえておく必要があるのが、生前贈与を受けると遺留分侵害額請求の対象になる可能性があることです。遺留分は法定相続人が最低限の財産を相続できる権利ですが、その遺留分に満たないような遺産しか受け取れなかったときには遺留分侵害額請求を行えます。生前贈与した分もこの対象となる場合があるので、遺族が納得できる形で生前贈与をする必要があります。
不動産の生前贈与をすれば相続税の節税対策になるのは確かです。ただ、生前贈与にはメリットも多い一方で、デメリットも知られています。親族でトラブルになるリスクもあることから、トラブルを未然に防げるように手続きを進めていくのが大切です。親族の誰もが納得する形にできるように慎重に生前贈与を行うようにしましょう。
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