相続税・贈与税
Column
相続税・贈与税
Column
「生前相続」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。相続といえば通常、人が亡くなった後に行われるものなので、この言葉は不思議に響くかもしれません。しかし何かとトラブルが起こりがちな遺産相続について、心配があるという人ならぜひ知っておいてもらいたいものです。そこで生前相続とはどういうものか、その仕組みとメリットについてご紹介します。
日本の法律で「相続」とは、誰かが亡くなった際にその人の財産が遺族などに引き継がれることをいいます。従って、生前相続という言葉は法的には存在しません。ただし、それに類する行為を行うことは可能です。亡くなってからではなく生きている間に財産をしかるべき人に移動する行為は、正確には「贈与」と呼ばれます。遺産相続の際にはその金額に応じて相続税が発生しますが、遺産が高額である場合には当然相続税も高額となり、例えば相続するものが不動産であれば大事な家を売却しなければ納税できないといった事態も起こり得ます。こうした相続税の対策として、「生前贈与」への関心が高まっているのです。
とはいえ、生前贈与でも税金が全くかからないというわけではありません。相続には相続税がかかるように、贈与にも「贈与税」というものがかかります。相続税を免れるために相続ではなく贈与を選んでも、やはり税金がかかるのでは意味がない、と考える人もいるかもしれませんが、贈与税については制度をうまく利用することで、合法的に節税することが可能です。その内容については後の段落で詳しく説明します。
なお、贈与が成立すると、その財産は贈与を受けた人の物となり、贈与した人の物ではなくなります。仮に贈与した側にこんなふうに使ってもらいたい、というような意向があったとしても、もらった財産の使い道はもらった人に決める権利があるため、必ずしもその意向が通るとは限りません。生前贈与の場合は相続に比べて渡す側の意向を反映したいという意思が働きがちですが、この点についてはあらかじめきちんと認識しておく必要があります。
贈与も相続も、ある人から誰かに財産を与える、という点では共通しています。異なっているのは、与えるタイミングです。与える側が生きている間に行われるのが「贈与」、亡くなってから行われるのが「相続」です。この二つは法律で明確に分けられており、その仕組みも異なっています。税金も、前述のように贈与ならば贈与税、相続ならば相続税が課せられます。
財産を渡す相手についても、その自由度は大きく違っており、相続の場合は原則として相続できるのは配偶者や子・親などの「法定相続人」です。配偶者がいれば無条件で法定相続人となり、あとは子がいなければ親、親もいなければ兄弟姉妹、といった具合に優先順位に従って権利が回ってきます。また、相続人ごとに受け取れる財産の比率も法律で決められています。遺言書である程度故人の遺志を反映させることはできますが、その範囲は極めて限定的なものです。
一方、生前贈与の場合はこうした縛りはなく、渡す側が誰に渡すかを自由に選ぶことができます。遺産相続の優先順位が低い孫や、子供の配偶者にも渡すことができますし、さらには親戚関係のないいわゆる赤の他人にも贈与することが可能です。誰に贈るかを決めるに当たって、家族や親族に相談する必要もありません。例えば自分を顧みない子供たちよりも世話になった他人に財産を残したい、と思っても、遺産相続の場合は配偶者や子供に「遺留分」という権利があり、ある程度は渡ってしまいます。しかし、生前贈与ならそういったことはないのです。
なお、民法で贈与とは「贈与契約」とされています。契約というのは双方の合意があって初めて成立するものなので、相手に対して「贈りますよ」ということを明確にしておかなくてはなりません。孫の名義で預金をしていても、そのことを孫に伝え孫が自由に管理できる状態にしていなければ、贈与は成立しないので注意が必要です。
では、気になる贈与税について解説していきましょう。実は、人から人へお金が贈られたらすべてが贈与税の対象となる、というわけではありません。対象になるものもあればならないものもあります。ここでは、それぞれ具体的にどんなケースなのか紹介します。
贈与の典型的な形は、生きている個人から生きている個人へ財産が贈られる、というものです。これは、民法で定められたれっきとした契約行為です。ただし、単に財産をあげただけでは法律上贈与があったと認められないこともあります。その場合、思わぬ課税をされることもあるので注意が必要です。
贈与と認められるためには、財産をあげる際に3つの条件を満たすことが必要です。一つは、財産をあげるに当たって全責任はあげる側が負い、もらう側には一切責任はないことがはっきりしていなくてはなりません。贈与はあくまで贈る側の意思に基づいて行われる、ということです。次に贈る側は「あげます」、受け取る側は「もらいます」とそれぞれ明確に意思表示をし、合意の上で贈与が行われる必要があります。先ほどの例でいうと、孫名義の預金をこっそりしていても、孫にそのことを伝えておらず合意もしていないのであれば贈与は成立しません。そして、財産は無償であげる、ということも必要です。何かの対価である場合は贈与として認められません。
また、民法の規定とは別に、税法独自の規定として「みなし贈与財産」というものがあります。先ほど述べたような形で明らかに財産を渡す、という形はとらないものの、実質的に財産を渡したのと同じとみなされる行為です。例としては、掛け金を負担していない人が生命保険や損害保険の保険料を受け取った場合や、対価を支払わずに借金の返済を免除してもらった場合などがあります。このようなケースでは、受け取る側が明らかに得をしているのに税金がかからないのでは不公平になるため、みなし贈与財産の規定を設けて贈与税を課税しているのです。
一方、お金を渡しても贈与税の対象とならないものもあります。生活に困っている人にお金を渡した、あるいは生活に必要なお金を渡したといった特別な事情がある場合です。他にもいくつかこれに該当するケースがあり、その内容は国税局によって提示されています。
まず、扶養関係のある家族に生活費や教育費を渡した場合には、贈与税はかかりません。親は子に対し、そして夫婦は相互に扶養の義務を負っているので、生活のためのお金を出してあげてもそれは贈与には当たらないのです。また、親が子供に出す様々なお金にも税金はかかりません。教育費だけでなく結婚・子育てや住宅取得のための資金を援助した場合も、一定の要件を満たせば贈与税の対象とはなりません。ただしこれらのお金も、常識に照らしてあまりにも高額である場合は、贈与税がかかることもあります。
個人から受け取る香典や花輪代、ご祝儀やお見舞い金、あるいはお中元・お歳暮やお年玉など、社会生活を送る上で必要な礼儀として渡されるお金にも贈与税はかかりません。ただしこれも、常識で考えて高額すぎる場合は課税されることがあります。
節税のために生前贈与を行うことを検討するのであれば、実際に贈与税がどのくらいになるのかを知っておく必要があります。ここでは、贈与税の額を知るために必要な二つの制度について説明します。
暦年課税制度とは、1年間で一人の人が受け取った財産に対して課税する制度です。この場合の1年間とは、1月1日から12月31日までの期間を指します。1年間に一人が受け取った財産が110万円以下なら贈与税はかかりませんが、110万円を1円でも超えると課税対象となり、翌年の3月15日までに贈与税を申告・納税しなくてはなりません。相続税にはもう一つ「相続時精算課税制度」という制度もありますが、こちらの制度を利用するには申請をする必要があり、申請していない場合は自動的に暦年課税制度が適用されます。
暦年課税制度での贈与税額は累進課税となっており、基本的には「(1年間に受け取った財産の価額の合計額-110万円)×税率-控除額」で計算しますが、誰から贈与されたか、すなわち贈与した人とされた人の関係性によっては計算方法が変わってくるので注意しましょう。具体的には、20歳以上の人が直系尊属(親や祖父母)から財産をもらった場合と、それ以外です。110万円まで非課税というのは変わりませんが、税率の上がっていくカーブは前者の方がゆるく控除額も多く、全体として贈与税は安くなります。
例えば祖父母から未成年の孫に財産を譲った場合や、夫婦間で高額な贈り物をした場合、あるいは叔父・叔母から甥・姪に財産を贈った場合などは、税額の高い方のパターンに当てはまります。
相続時精算課税制度は、合計2,500万円になるまでは生前にいくら贈与しても贈与税がかからない、という制度です。贈与を1回ではなく複数回に分けて行った場合でも、合計額が2,500万円を超えなければ非課税となります。この制度を利用できるのは、60歳以上の親や祖父母が20歳以上の子供や孫へ贈与を行う場合ですが、税務署への申請が必要です。制度を利用したい場合は、最初の贈与を行った年の翌年3月15日までに、贈与税の申告書と共に「相続時精算課税制度選択届出書」を管轄の税務署に提出しましょう。
この制度には、注意しなくてはならない点がいくつかあります。まず、贈与したお金の合計額が2,500万円を超えたら、超えた部分には一律20%の税金がかかります。また、贈与した人が亡くなって相続が開始した際には、この制度を利用して贈与された財産は相続財産に足し戻さなくてはなりません。そして、一度この制度を使い始めたら、暦年課税制度に戻すことはできません。
生前贈与した額を相続財産に足し戻す、ということは、結局生前と逝去後にもらったすべての財産に対し「相続税」がかかるということです。トータルで見ると、これでは節税にはなりません。一度に2,500万円もらってもその時点で贈与税はかかりませんが、後々総額に対して相続税がかかるということで、単に税の先送りにしかなっていないのです。
では、生前贈与にはどんなメリットがあるのか見ていきましょう。
贈与税の課税システムには「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の二つがありますが、このうち暦年課税制度を選ぶと1年につき110万円の贈与までは贈与税がかかりません。そのため、毎年110万円以下になるよう分割して贈与を行えば、贈与税を課せられることなく相続財産を減らしていくことができます。
例えば1,000万円の現金を財産として持っている場合、そのまま亡くなると1,000万円に対して相続税がかかります。しかし生前に110万円を贈与していれば、相続財産は890万円となり、1,000万円の場合に比べて相続税が安くなるうえ、生前贈与したお金に関しては相続税もかからないため、トータルで節税になるのです。
相続時精算課税制度については、生前の贈与額の合計が2,500万円までは非課税になるものの、相続時に贈与額が財産に足し戻されるため節税にならないと説明しました。しかし、足し戻した合計額が相続税の非課税枠内に収まっていれば、相続税も贈与税も課税されないため節税効果が得られることになります。
渡したい人に渡したい財産を自由に贈れる、というのも生前贈与の大きなメリットです。遺産相続の場合は、民法の規定で決められた法定相続人に決められた割合で分配されます。遺言書を作成することで財産分与の相手と内容をある程度決めることもできますが、手続きが面倒ですし、遺留分の問題もあり完全に思い通りにはいきません。それに、もし遺言書に不備があれば内容通りの相続ができず、かえって遺産をめぐり親族間での争いを引き起こしてしまう恐れもあります。
生前贈与の場合はそうした心配は一切ありません。面倒な手続きもなく、自由に財産を分け与えることができます。生前に財産の分配を行っておけば、亡くなった後にトラブルが起きる心配もありません。法定相続人のような制度に縛られることもないので、お世話になったお礼にと親族ではない人に贈ることも可能です。自分の財産は自分の意志に従って分配したい、特定の財産を特定の人に渡したいといった場合にはおすすめできる方法です。
生前相続とはどういうものか、その仕組みやメリットについて理解できたでしょうか。生前相続にはやり方次第で節税ができたり、誰にいくら贈るかを自由に決められるなど様々なメリットがあります。遺言書のような面倒な手続きが要らないのも魅力です。しかし、ここで紹介した内容を理解しても、実際行うとなると難しいものです。生前相続を考えるなら、まずは遺産相続のプロに相談してみましょう。
不動産の生前相続とは?タイミングがカギ!
土地の生前相続を考える~相続税対策としての賢い選択
知ってると知らないとでは大違い!円満遺産相続
失敗しないための遺産相続の基礎知識